第3回-3 八角丸太小屋 移築日記「丸太を組む」
八角小屋の移築先は、南房総の海が見下ろせる高台にあった。二十数年、「房総のチベット」といわれた「大崩」(おくずれ)の山中に隠棲していた初(うぶ)な娘が、いきなり白昼のリゾートにトップレスで引っぱり出されたような気恥ずかしさがある。
だが、おたおたする間もなく、むくつけき男どもによって担ぎ出され、復元工事が始まった。まず、基礎をつくるが、すでに丸太の寸法も、アンカーボルトの位置も決まっている八角の基礎を、あらためて正確に設置するのに意外に手こずった(正確には、八角形の母屋に、約1間分の玄関部分が接続している)
8カ所の沓石を固定したら、丸太組みに移る。1段目は、八角形の1面おきに4本、半分の厚みに製材した丸太を入れる。次に、その倍の厚みの丸太に、重なり部分のノッチを加工して交互に組む。最初の4本より、丸太半分の厚みだけ高くなる。この連続で丸太の壁が、互い違いに組み上がっていくことになる。構造は単純なのだ。
が、やっかいなのは、小屋が八角形だということだ。丸太を、斜めにノッチを切って組んでいかなければならない。角材ならともかく、1本ずつ形や太さが異なる丸太を、斜めにノッチを切って合わせるのは難しい作業だ。古い丸太はそのまま使えるが、新しい丸太は、あらためてノッチを入れて組む。
ノッチの寸法を出すのに、スクライバーなどは使わない。日本古来の曲尺で、下の丸太の寸法と形を写し描く。何を隠そう、僕は曲尺屋の倅なのである。丸太は斜めに組むので、両側の型を取る。
丸太を裏返して、平面に直線を引いたら、それに合わせて、チェーンソーでカットする。チェーンソーの刃が短いと、反対側まで届かないので苦労する。
1段目ができたら、床を張るための根太を組む。あとは、壁の丸太を1段ずつ組み上げていく。だが、その先に、新たな難問が待ち受けていた。なんで、こーなるの!